『恋の欲目』







「天之橋さんっ教えていただきたいことがあるんです!」
「おや? くんじゃないか。知りたいこととは何かね?」
は意を決したように天之橋をじっと見つめて言った。
「花椿先生って何者なんですか!?」
「花椿吾郎…はばたき市が誇る世界的デザイナーでファッションリーダー。
今はこのはばたき学園の客員講師も勤める。そして君の師匠だよ。
今の花椿のことなら、君の方が詳しいんじゃないかい?
どこへ行く時も君を連れて行くと聞いたが…」
確かに今の花椿のことなら が一番詳しい。
今日のスケジュール、お昼に何を食べたのか、
今進めているプロジェクトの詳細まで事細かに言える。
だが、それは が花椿の弟子兼マネージャー兼秘書のようなものだからで、
の知りたいことはそんなことではない。
「そういうことではなくて、もっと先生のことを知りたいんです!!」
「花椿と何かあったのかね?」
天之橋は心配そうに を見る。
「何もありませんよ。
ただ…この前、海外からのお客様がみえた時…」


花椿は世界的ファッションデザイナーになった今も、
故郷であるこのはばたき市を活動の拠点に置いていて、
バイヤーやデザインの依頼主はここに訪ねてくる。
この前、事務所にやって来た外国人もそういう人の一人だったのだけれど、
馴れ馴れしいというか…セクハラおやじ…というか…
話が終わって帰り際、先生の後に控えて立っていた私の肩に手を回して、
―――Is the origin of your novel design such a child?
って英語で先生に聞いて、
先生は私の肩からおやじ…もとい…お客様の手を払って、にっこり笑って…
お客様はまた英語で
By the child who seems to be anywhere?
と聞いたら、先生は私の顔を見て英語で何か答えて、
She has possibility.
シィ ハス ポ…?何だろ…たぶん私のことを言っているのにわからない。
It’s so-called "コイ ノ ヨクメ".(お客様)
コイ…恋?…の欲目…?ますます何の話なのかわからない。
No…I look forward to the possibility of her.(先生)
But my feelings still are a secret to her.(先生)
Really?(お客様)
It’s a scoop !(お客様)
「何のことかわかりませんけど、ス…スクープっていいんですか!?先生っ!」


「…ってことがあったんです。」
英語の部分は何を言ってるのかさっぱりわからなかったから、
上手く伝えられなかったけど…わかってもらえた…かな?
「君は…3年生の文化祭の時、
私と花椿が舞台そでまで応援に行った時のことを覚えているかな?」
「文化祭?
私がウェディングドレスを発表した…あの?」
確かに天之橋さんと花椿先生が出番直前にやってきてくれて、
私の緊張を解してくれた。
おかげで発表は上手くいって大成功を収めることが出来た。
「そうだよ…あの時、君の作ったドレスを見て、
花椿は衝撃を受けていたようだった…」
今から思えばシンプルすぎて何の特徴もないドレスだったような気がする…
それを見て、先生が衝撃を受ける?…まさか。
「ところで、君は英語の成績はどうだったのかな?」
「英語…ですか…?」
う〜ん…いつも赤点だったような…
「その表情からすると、得意ではないようだね。」
「はぁ…」
「花椿と一緒にいるのなら、外国語習得は必須事項だよ。
君も知っているとは思うが、花椿の店は世界中にある。」
それは知ってる…
「花椿先生は得意…ですよね…」
この前の会話で十分証明されてる。
「ああ、あいつはミラノで修行していたからね。」
「あの…ミラノってイタリアの?」
ミラノってことはイタリア語で英語じゃないんじゃ…
「いや…パリィだったかな…」
パリィならフランス語じゃ…
「そうだそうだ。ニューヨークだったかもしれない。
いや、ロンドンか?とにかくあいつは世界中を旅しているからね。」
うぅ…駅前留学しよう…
「おっと…そろそろ職員会議の時間だ。
花椿について参考になったかな?」
「はい…お時間取らせてすみませんでした。」
結局、全然わからなかった…
私、なんでこんなに先生のことを知りたいんだろう…?
だって、先生、経歴もはばたき市出身ということしかわからないし、
今までどこで何をしていたのか、どこに住んでいるのかも
一切不明なんだもの…
もしかして…結婚してたりして…そうだったら…残念かも…
えっ!ちょ、ちょっと、なんで残念なのよ!
「…お嬢さん。」
トボトボと歩いている私を呼び止める男の人…ヤダ、ナンパ?
「ったく、一鶴からどんな情報を仕入れようとしてたのさ、
アタシの子悪魔ちゃんってば。」
「せ…先生!?」
って、その格好は何?
先生はいつもの格好じゃなくて、カ…カッコイイ…
いつもの格好がカッコ悪いわけじゃないけど…
「先生…どうしたんですか?その格好…」
いつもと違う髪型で、スーツだし、サングラスまでかけてる。
一歩間違ったらマフィアみたいになりそうなんだけど、
さすがはファッションリーダー、うまくまとめてる。
「変装よ!変装!」
確かに花椿先生だってわからない…かもしれない…
いつものようにクネクネしなければ…
「なんで変装なんかしてるんですか?」
「敵情視察よ。」
「敵情視察…?」
「とにかくっ一緒にいらっしゃいっ 。」
花椿は の手を取ると弾むように駆け出した。

2人の行く先は…
とあるブランドのウェディングドレスを扱うことで人気のある結婚式場。
は何着もドレスの試着をさせられ、
花椿と共に結婚式の予行練習ゴッコをした。
「桂木由美もイマイチね…
アンタのウェディングドレスはアタシがデザインしてあげる。
アタシとアンタがグッと引き立つようにネ。」
えっそれって…と は頬を赤らめた。


その頃、職員会議中の天之橋はふと思った。
そろそろ花椿の恋の季節だな……と。




Fin



インチキ英会話コーナー
創作中出てきた花椿先生とバイヤーのオヤジの会話の和訳です。
オヤジ「花椿の斬新なデザインはこんな子供から閃くのかい?」
花椿 ンフフ♪
オヤジ「こんなどこにでも居そうな子から?」
花椿「この子には可能性があるのヨ。」
オヤジ「それは“恋の欲目”ってやつだろう。」
花椿「ンなことないわヨ!
アタシはこの子の可能性に期待してるんだから!
それにアタシがこの子をどう思ってるかはまだナ・イ・ショよ!」
オヤジ「ほんとか!?そりゃスクープもんだな。」

って感じです…かな〜り意訳です。
(後略)





■咲維亜から一言■
世界をまたにかけたお洒落で壮大なお話が、あの絵から出来るなんて!!
本当に、こちらこそ驚きの、素敵な作品をコラボして下さり、嬉しかったです。
お茄子様、展示許可どうも有り難うございましたv

お茄子様のサイトへ…